35歳からの中二病エンジニア

社寺・鉄道・アニメを愛でるウェブ技術者の呟き

新宿から鎌倉市腰越に引っ越した

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小動神社から望む腰越漁港と江ノ島

コロナ禍にあって余り大っぴらにするのは憚られたけれども、少しずつ落ち着いてきた感があるので忘れない内に書き綴っておきたい。ちなみに、初耳だ!聞いてないぞ!という方は安心してほしい。引っ越したことは一部の親族と勤務先の人にしか話していなくて、これがほぼ初周知となる。

概要

滋賀から東京都内に出てきて、10年ほど新宿に住みつつ近辺に通勤していたが、鎌倉市腰越の築浅アパートを借りて引っ越した。部屋は1LDKから2LDKに増えた一方、家賃は2/3の10万円になって生活に余裕が生まれた。今は完全な在宅勤務をしながら、余暇は鎌倉の町並みを散策したり海沿いを自転車で走ったりしている。住む場所は人によって相性があるだろうが、多少の利便性と引き換えに住み良い環境を求めるのもこれからの時代にはあり得る選択ではないかと思う。

引っ越した背景

主に人口10〜20万人程度の地方都市を転々とした後、10年ほど前から新宿で妻と同居していた。

15.5万円で1LDKのマンションを東新宿駅近くに借りていたが、数年前に貸主が転売によって変わって以来、契約更新の度に賃料の値上げを迫られて突っぱねるのに辟易していた。また近年では住民間トラブルも出てきて、近隣住民の勘違いで警察沙汰に巻き込まれたこともあった。そんなこんなで、2019年の夏頃からは「次の契約更新までに」くらいの緩い目処で引越を意識するようになり、東京都内の郊外地域をぼちぼちと散策していた。

転機がやって来たのは今年2020年に入ってからのことだ。年初からエアコンが故障して修繕を放置され、その後やって来たコロナ禍、更に勤め先の会社が恒久的なリモートワーク化に舵を切るという大きな意思決定があって、最適解をパズルのように試行錯誤していくことになった。

当然ながら、コロナ禍が落ち着くまで現状維持という選択肢が最初に立った。ただ、入居から10年の更新を迎えるに際して再び賃料の値上げで面倒な遣り取りが発生するのは確実で、その上電気給湯器やIHコンロ等の電気系統もいつガタが来てもおかしくないし、また放置されたら堪らない。更に、部屋の間取りが1LDKだと仕事専用のスペースが確保できなくて、既に家族のストレスが高まっているという事情もあった。付け加えるならば歌舞伎町に隣接する地域柄、繁華街を行き来する人達との接触が避けにくい点も気になっていた。

一つ一つの事情は必要火急とまでは行かずとも、足し合わせると数え役満という所だろうか。そんなわけで、これらの事情を勘案しつつ「もし本気で住みたいと思える賃貸物件があれば」という縛り付きでネット上での部屋探しを継続することにした。

部屋探しの条件

前述の理由で貸主との面倒事に悩まされたので、大手管理会社のサブリース物件を中心に検討することにした。持ち家については僕が飽き性ということもあり眼中に無く、以下の条件を満たす範囲で安くて綺麗な物件を探そうということになった。

  • 部屋の間取りは2LDK以上
  • 東京都心まで片道1時間程度まで
  • 最寄り駅から徒歩15分以内
  • IHコンロ完備

東京都心まで片道1時間というのは、ずっと在宅勤務が約束されるのであれば緩和しても良かったかもしれない。ただ僕の場合はITベンチャー勤務でいつ何が起こるかわからない(実際、恒久的なリモートワーク化という大転換があったわけで)ので、いざとなれば都心との行き来がある程度しやすい場所に絞った。

あと最後のIHコンロについては、家族の安全を考えてのこと。今までにも何度かヒヤリとする出来事があったので、料理をするのであればガスコンロでなくIHコンロ必須ということにした。後付けの製品もあるけれども、2口以上で出力が大きいものとなるとやはりビルトインになるので、完備された物件に絞った。

ただこの条件が曲者で、物件検索でチェックボックスをオンにした瞬間、検索結果が9割減!やはりまだまだガスコンロ強し。ということで、路線や地域から掘り下げていくのではなく、IHコンロ完備の物件を片っ端からチェックしていくという何ともマイナーな部屋探し方法となった。

鎌倉市腰越という地域

前述の条件で色々と物件を探していると、見つかるのはやはり所沢とか中央林間とか、鉄道会社がドカンと誘致した郊外都市が強い。そんな中でひょこっと家族が見つけてきた物件を見て、目を疑ってしまった。

「江ノ島駅徒歩n分・鎌倉市腰越」

GJすぎる。僕は何を隠そう社寺&鉄クラスターの端くれであり、鎌倉は観光等で既に7回訪れているくらい好きな場所だ。ただ、僕の中では鎌倉というと鶴岡八幡宮でお馴染みの若宮大路から大仏でお馴染みの長谷あたりまでの印象が強く、観光には強いが住む街としては今ひとつピンと来なかった。しかし、Wikipediaの記事 を見てみると鎌倉の複数の側面が見えてくる。

三方が低い山で囲まれ海に面する地であり、かつては鎌倉幕府が置かれ政権の要の地となり、日本史の時代区分でもある「鎌倉時代」の由来にもなった。今日では旧腰越町や旧大船町など、いわゆる「三方を山に囲まれた鎌倉」の外側に位置する地域も市内に含まれる。(中略)明治初期、現鎌倉市域を含む鎌倉郡を管轄する郡役所は戸塚(現横浜市戸塚区)に置かれた。明治中期以降、保養・別荘地として、昭和以降に観光地として改めて「都市・鎌倉」の発展を見たのである。ゆえに中世以来の建造物はほとんど存在せず、文化遺産として価値の高い中世都市の遺構の多い地域といえる。

つまり、所謂「武家の古都」としての鎌倉以外にも、腰越や大船のような後から合併した地域や、保養・別荘地として発展した地域が入り混じっているのが今の鎌倉市ということだ。

その中で腰越という地域を見てみると、鎌倉市唯一の漁港である腰越漁港を有しており、街は概ね海に面している。一方、街の中心部には江ノ電の併用軌道区間(所謂路面電車)が現存していて、この電車通りが商店街を兼ねている。Googleストリートビューで見てもわかる通り、街全体が昭和感に溢れていて、隣の七里ヶ浜や江ノ島界隈のようなパリピの巣窟とは一線を画している。

………めっちゃ僕好みやん。

2LDKで10万円は妥当か

さて、そんな鎌倉市腰越の家賃相場はどうかというと、鎌倉市内の江ノ電沿線の相場では概ね最安だ。

江ノ電沿線は見た限り、生活の利便性よりも観光地・別荘地としてのプレミアム感で家賃も動いているらしく、鎌倉駅近くは当然のこと、七里ヶ浜や稲村ヶ崎等の人気観光スポットは家賃も高く、東京都心寄りの郊外よりも高いということが普通にある。一方の腰越は穴場扱いなのか、1Kであれば5万円台で借りられるくらいの妥当と思われる相場感になっている。

2LDKで10万円という家賃については、条件を選ばなければもっと下げられることは事実だし、東京都内でも十分に探せる。ただIHコンロのある物件は選択肢が狭い分相場も若干高めで、見つけた所は管理会社も大手のしかも築浅物件だ。そこまで加味すれば妥当だし、何より今までの2/3にまで圧縮できるというのが大きい。旧居はネット回線付きだったのでその分を考慮しても、毎月5万円浮くわけだ。

場所良し、間取り良し、家賃良し、ということで引越決行となった次第である。

住んでみての所感:住まい

ここから実際に住んでみての所感を3段階評価と共に列挙していきたい。ざっくり◎は旧居より良い、◯は同等か十分満足、△は悪いという感じで。

◎ 家賃は下がり部屋は増えた

家賃は15.5万円から10万円へと一気に下がり、逆に間取りは1LDKから2LDKに増えたので、増えた1部屋を仕事部屋にできた。また鉄筋コンクリートから軽量鉄骨になったので、部屋の角や天井の出っ張り等も無く間取りが自然なのも良い。

◎ 景色や空気が良い

何と言っても部屋から海が見える。そして空が広い。これは精神衛生上非常に良い。旧居では隣もビルで大通りに面していたので窓の外なんて見る気にならなかったけれども、新居では気分転換に外を眺めてリフレッシュできるようになった。

あと、旧居とは比較にならないくらいに空気が美味しい。新宿の空気は排気ガスやら飲食店の換気口からの臭いやら地下鉄の換気口からの臭いやら、色んなものが混ざった淀んだ感じだったけれども、そういう混じりっ気が一切無い。その代わりに磯の香りがデフォルトなので、苦手な人には辛いかもしれない。

◎ 水道水がそのまま飲める

これは職場だと問題無かったので住居設備にもよるかもしれないけれども、旧居では水道水は沸かしてお茶やコーヒーにしても臭くて飲めたものではなかった。新居では水道水をガブ飲みしても平気なので、浄水ポットが要らなくなった。

◯ 虫が少ない

意外すぎて拍子抜けしたのがコレ。都会を離れるとそれに反比例するかのように虫が増えるものと覚悟していたけれども、今までに住んだ所と比べると全然大したことない。勿論新宿よりは多いけれども、夜に窓を開けていてもシーリングライトのカバー内が虫の死骸で埋め尽くされたりしないし、部屋に入り込んでくるとしても蜘蛛が大半なので全然気にならない。

どうやら海の近くというのは真水が少ないので、蚊をはじめ虫が育ちにくいらしい。滋賀に住んでいた頃は琵琶湖が淡水のおかげで塩害は無かったけれども、虫がビックリするほど多かったのを思い出す。虫と塩害、どっちがマシか。究極の選択である…。

△ 塩害と風と湿気が凄い

というわけで塩害は想定内ではあったが、玄関先に置いた宅配ボックスの南京錠が2週間で錆だらけになった時は衝撃を受けた。自転車にはカバーを掛けてあるので今の所は平気だけれども、屋外である以上劣化は早まると思われる。

そして塩害よりも盲点だったのが強風だった。置いてある自転車が総倒れになるくらいの強風が週に一度は吹くので、頭髪のことをとても心配している。あと、湿気については梅雨入り前の晴天時でも風向きによっては70%を超えることが頻繁にある。洗濯物は磯の香りが付くこともあって室内干しがデフォルトになった。

△ ごみの分別が細かい

燃やすごみと燃えないごみが有料なのはまぁ仕方ないとして、プラスチックでも容器包装プラと製品プラに分かれていたり、紙でもミックスペーパーとボール紙・クラフト紙とダンボールに分かれていたり、引っ越してきた当初はごみ分別の説明冊子とにらめっこする毎日だった。また、旧居では粗大ごみ以外は各階のごみ保管庫をいつでも利用できたので、燃えないごみや製品プラの回収が月に一度という事実には目眩がした。まぁこういうのは慣れなので、今ではそこそこ要領良く処理できるようになったけれども。

△ 珍走団が喧しい

これは地方都市あるあるだけれども、週末の夜になると珍走団が湧いてくる。ただ、これについては生まれ育った街でも同様だったのでそんなに気にならない。むしろ旧居のように昼夜を問わず消防署からサイレンが鳴り響くよりは、週末の夜寝る前に限定される分だけマシかもしれない。勿論、あくまで快適さについての話であって、緊急車両のサイレン音は必要なものだが珍走行為は取り締まられるべきなのは言うまでもない。

住んでみての所感:周辺環境

観光都市鎌倉の面目躍如となる部分。逆に言うと、このあたりに魅力を感じなければ利便性に優れた郊外都市や都会に住んだ方が幸せになれるだろう。

◎ 海岸や漁港が近い

近所の人達が水着で家から泳ぎに行く程度には砂浜が近い。シャワーや更衣室が混雑していても関係無いのは嬉しい。あと、シーズンオフであっても漁港があるので、桟橋からぼけーっと海を眺めるのも悪くない。

◎ 江ノ電の併用軌道区間が近い

併用軌道というだけでも気分が上がるというのに、江ノ電は車両の形式が多いので毎度何が来るか楽しみになる。特に最古参の300形と腰越商店街の組み合わせは絵になる。

ただし、道幅がそんなに広くないので慣れない車や自転車がよく電車の走行の妨げになってしまい、警笛がしょっちゅう聞こえてくる。商店街を歩く時も気を付ける必要があるし、鉄道に興味の無い人にとってはデメリットかもしれない。

◎ 名所旧跡が近い

鎌倉は小さな都市なので、名所旧跡のほぼ全てに自転車でサクッと行ける。鎌倉市街までだと市を東西に横断することになるけれども、それでも自転車で20分程度だ。その間海沿いを行けば七里ヶ浜や稲村ヶ崎、由比ヶ浜等のビーチスポットを快走できるし、少し中に入れば極楽寺や長谷のような社寺と緑溢れる閑静な地域をまったり走れる。

あと、住所は鎌倉だけれども腰越は市境なので、江ノ島にも徒歩で行ける。こっちはオンシーズンだと普段から人が多いので日や時間を選ぶけれども、仕事上がりに弁天橋から夕日を見るという贅沢が日常になるというのは良いものだ。

△ 高低差が激しい

鎌倉は三方を山に囲まれ一方は海という天然の要害。これは鎌倉幕府の成立のあたりで習う有名な話だけれども、要するに市内は山だらけということだ。実際、少し内陸寄りの道を走ろうとしただけで大抵は心臓破りの坂にぶち当たる。車やバスでの移動は慢性的な渋滞が厳しすぎるので、現実的な移動手段は原チャリか電動アシスト付自転車だろう。

住んでみての所感:利便性

鎌倉市がというか、腰越が意外なほどに便利な地域だった。車の必要性を全く感じない。鎌倉市内でありながら、湘南最大の街である藤沢駅にもそこそこ近いのが強かった。

◎ スーパーと薬局が近い

これは鎌倉だと住む地域によって全く様相が異なる。昼間は観光客で賑わう地域でも、普段使いの買い物ができる店が皆無という場所も多いので、物件を選ぶ時には慎重を期する必要があるだろう。幸いなことに、新居からはスーパーが徒歩3分以内、薬局も徒歩5分以内なので、日常生活の食料品や消耗品の買い物には全く困らない。コンビニも徒歩10分以内で大手3社が揃っているし、郵便局も美味しいパン屋も5分以内で行ける範囲にある。

旧居は隣がコンビニだったので便利ではあったけれども、スーパーと薬局が今よりも遠かったので、むしろ日常の買い物だけならより便利になってしまった…。

◯ 3線利用可

これまた鎌倉の中でも腰越や江ノ島界隈に限った話だけれども、江ノ電・小田急・湘南モノレールの3線を利用できてしまう。地方都市でこの鉄道の充実ぶりは凄い。おまけにどの路線も日中ダイヤで毎時5本以上列車があるので、「列車の時刻を考慮した行動」という地方都市あるあるな制約が全く無いのが嬉しい。

ただし、同じ鎌倉でも鎌倉市街と江ノ島近辺以外は江ノ電しか選択肢が無くなるので注意されたい。

◯ 片瀬江ノ島駅・藤沢駅から始発で座れる

土休日であれば片瀬江ノ島駅から、平日は江ノ電で藤沢駅まで出れば新宿行きの始発に座れる。座れても混雑が嫌だというのであれば、ロマンスカーに乗るという手もある。幸い小田急は長距離運賃が安いので、片瀬江ノ島から新宿まで運賃は640円、特急券は630円で行ける。これならいざ通勤が必要になったとしても、ロマンスカー通勤しても家賃が浮いた分と相殺してまだ8割くらい残る。

△ 百均の店が近くに無い

これは地味に痛い所。ホームセンターや無印やニトリが遠くても百均があれば大体何とかなると思っていたら、藤沢駅前まで出ないと無かった…。逆に駅前にはダイソーだけで3店舗、キャンドゥやセリアもあるし、3COINSだってある。そのダイソー、1店舗だけで良いから分けてくれ…。

ちなみにこれはかなり贅沢な不満で、藤沢駅前には自転車で15分も走れば着いてしまう。その程度は地方都市では十分に近いと言えるはずなので、いかに自分が新宿に毒されていたかがよくわかる。

△ 他地域のソウルフードが少ない

僕は引越が多かったので各地のソウルフードを食べてきたのだけれども、そういう店が全くと言っていいほど無い。例えば東京であれば、味噌煮込みうどんとかチャンピオンカレーとか近江ちゃんぽんとか、そういうご当地ソウルフードを近場で楽しむことができたのだけれども、こっちには辛うじて天下一品が大船にあるくらい。そもそも天下一品ってもはや全国区だし…。そういうのが恋しくなったら、東京都内に出るついでに食べるしかない。

おわりに

住む場所を選ぶのは就職活動と似た所があると思っていて、それはどちらも「誰にとっても最高」というのは無く、相性で良し悪しが決まるということだ。

僕は20代から30代半ばにかけては仕事第一でハードワークどんと来いな感じだったので、旧居は通勤時間の短さと生活の利便性に振り切っていて、当時としては良い選択だったと思っている。ただ、これから40代にかけては若い頃のような無茶な働き方をしていたら心身を壊す(というか実際に壊した)ので、生活の豊かさに軸足を移していきたいと常々考えていた。新居はまさにその思いを実現してくれる場所だと思っている。

同じ人間でも年を重ねることで価値観が変わるわけで、他人ならば尚更のことだ。人によっては田舎よりも都会の方が合うかもしれないし、古くからの街よりもニュータウンの方が合うかもしれない。僕は今回海沿いの観光都市である鎌倉市の腰越を選んだけれども、これはかなり振り切った選択だという自覚はあるので、人には中々薦められない。

とはいえ、コロナ禍を機に生活や仕事の環境が大きく変わった人々も今は多かろうと思うので、大都市よりも人混みの少ない地域へ引っ越そうとか、アウトドアの娯楽が多い地域へ引っ越そうとか、多少の利便性と引き換えに住み良い環境を求めるのも良いのではないかと思っている。

蛇足

腰越という地名について、歴史に造詣のある方であれば源義経の腰越状(頼朝から鎌倉入りを許されなかったアレ)を思い浮かべるかもしれないが、まさにこの地のことであり、由来とされる書物や逸話が町内の満福寺に伝わっている。

あと、冒頭の腰越漁港の写真、これは今期アニメとして放送されているかくしごとのOPサビで映し出される漁港そのままだったりする。こうしたネタが近所に散りばめられているのはとても楽しい。いつかは飽きる時が来るとしても、当面は満喫できそうだ。

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江ノ島弁天橋から眺める夕日