35歳からの中二病エンジニア

社寺・鉄道・アニメを愛でるウェブ技術者の呟き

ATOKによる「不快語・表現など」への方針について思うこと

先日このような記事を書いた所、沢山のブコメをいただいた。

aikawame.hateblo.jp

その中で以下のようなコメントに多くのスターが付いていたことに気付いた。

さよならGoogle日本語入力、ただいまATOK - 35歳からの中二病エンジニア

ATOKは「下衆の勘繰り」と書こうとして「下衆」が言葉狩りで変換できなかった瞬間に、こんな恣意的な表現規制をする会社のソフトは使うべきではないと判断した。以来Google日本語入力使ってる

2019/01/13 15:56

当初はそれほど気にしていなかったけれども、後からブコメを見返すと、類似のブコメが幾つも大量のスターを獲得していたので、これは言及しないわけにはいかないと思い、僕自身の意見を述べておこうと考えた次第だ。

結論から言うと

まず結論から言うと、僕自身ATOKの方針に諸手を挙げて賛同するわけではないが、開発元であるジャストシステムを取り巻く環境や社会情勢を鑑みると、妥当な判断ではないかと考えている。

何が問題なのか

ATOKにおいては以前より、所謂「不快語・表現など(公式の表現まま)」に関する語彙を辞書に収録しない方針がとられている。これは、同社FAQでも明言されているため、同社の公式見解と考えられる。

この方針については、以前より一企業が恣意的に語彙を選別することに対する賛否が少なからず存在しており、ATOKの評価には常に付いて回る問題となっている。

変換自体は規制されていない

本件についてまず注意しておきたいのは、ATOKの場合、「不快語・表現など」に関する語彙は標準の辞書に収録されていないのであって、単語登録やユーザー辞書登録を行えば、そうした語彙でも問題なく変換できるという点だ。

これがもし変換自体規制されたり、警告されたりとなると、実用面で問題が出てくることもあろうが、現状その部分はユーザーの自己判断に委ねられているので、無難な落とし所だと考えている。

ちなみに、何らかの事情で「不快語・表現など」に該当する語彙を頻用する場合、ATOK用の放送禁止用語辞書が公開されているので、少なくとも不便さは解消されるはずだ。

他社製IMEよりも選別が厳しいが

他社製IMEではこんなに厳しくは選別されていないというのは尤もだ。これについてはジャストシステムにおけるATOKの立ち位置が大きく関係していると考えている。即ち、

  • ジャストシステムが上場企業であること
  • 事業として通信教育分野が伸びていること
  • ATOK自体が同社の看板商品であること

という点だ。上場企業であり、通信教育分野で売上を伸ばしている中では、もう一方の看板商品であるATOKにおいても青少年やその保護者への配慮が不可欠だということは容易に想像が付く。モンスターペアレントの問題も叫ばれて久しい社会情勢にあって、結果的に現状のような方針にせざるを得ない状況なのではないかと考えられる。

また、ジャストシステムは今でこそ通信教育分野で伸びてきているとはいえ、まだまだATOK一太郎の会社という印象が根強く残っている。その一角で何か問題が起きたとなれば、会社全体のブランド毀損と凋落に直結し得る。Googleが周辺サービスの1つに過ぎないGoogle日本語入力を失うのとは訳が違うのだ。

こうした状況下で、ジャストシステムが自主規制の側に倒すことには一定の合理性が存在すると考えている。

語彙の選別に問題はないのか

実際どういった語彙が「不快語・表現など」に該当するのかは、非常にデリケートな問題なのでここでは触れない。ただ、個人的に長年ATOKを使ってきた限り、党派性のようなものは特に感じず、地上波のテレビ放送でピー音が入るような語彙が順当に規制されているように見受けられる。

これが極端に党派性を帯びたものであれば、ちょっと待てとなる所だろうけれども、そうした部分については受け取り方に個人差もあるだろうから、実際に使ってみるのが一番だろう。

利点としても捉えられないか

ユーザーにとってはネガティブ要素しか無いようにも見えるこの方針だが、利点もあると思っている。自分が何気なく入力した語彙が、うまく変換されないことで、実は不適切な表現と捉えられかねないということに気付けるという点だ。

実際、僕自身もこのおかげで怪しい語彙を調べて使うのを避けられたという経験が何度かある。逆に、調べた上で問題ないと判断すれば、単語登録しておけば良いだけの話なので、頻発しなければ特段問題にはならないと思う。

おわりに

当然ではあるが、こうした状況を踏まえてATOKを使わなかったり、批判するという選択はあり得ると思う。僕自身、語彙というのは自らの責任で繰り出すものだと思う部分もあるので、必ずしもATOKの方針が正しいとは考えていない。いつの間にか偏った語彙の選別を行うようになっていたみたいなことも無きにしも非ずな方針なので、危険性を孕んでいることには同意する。

ただ、ソフトウェア開発者の端くれとして、あらゆるソフトウェアには開発者の思想というのが含まれているとも常々思っている。伝聞だけで「なんと、ATOKはけしからん」と選択肢を狭めてしまうには、余りにも勿体ないくらいに優れたソフトウェアだとも思う。なので、そうした方針という時点で無理というのでない限りは、実際に試してみて、その思想に考えを巡らすのも良いのではないかと考えて言及した次第である。

今回の一連の記事をきっかけに、少しでもIMEの選択肢について興味を持つ人が増えれば幸いだ。

ATOK (日本語入力システム)

ATOK (日本語入力システム)