35歳からの中二病エンジニア

社寺・鉄道・アニメを愛でるウェブ技術者の呟き

アスペに電話は鬼門

僕は電話が大の苦手だ。

店や病院への電話予約ですら苦手で、ネット上の予約サービスがあれば迷わず使うくらいだったりする。ただ、どうしても電話連絡になってしまうことは多々あって、その度に大なり小なりやらかしてしまう。というわけで、ASDにとって電話が如何に鬼門なのかということについて触れてみたい。

ちなみに、題名には認知度を考慮して「アスペルガー」の略を持ち出したけれども、文章内ではASD(自閉症スペクトラム)に統一する。

実際にあった遣り取り

今回は別に実害は無かったが、「またやった!」という印象に残る遣り取りだったので紹介しておく。電話の相手は、不動産会社と提携する緊急対応サービスで、日中にメールで不動産会社に家電の不具合点検を依頼していたのが届いての対応だった。ちなみに、時間は20時頃のことだった。

相手「(aikawame)様の携帯電話でしょうか?」

僕「はい、(aikawame)です。」

相手「私、(不動産会社)から連絡を受けてお電話差し上げました、〇〇の△△と申します。

僕「はい、お世話になります。」

相手「お世話になります。今回、(家電)の不具合の件でご確認なのですが、この後お時間よろしいでしょうか?」

僕(は…?この後の時間に確認…?すぐに来てくれるの…?でもこんな時間に…?えっ?えっ?)

僕(とりあえず返答しないとまずいよな…ええい、ままよ!)

僕「え…っと、この後確認しに来て頂くのですか…?」

相手「あっ…、いえ、それは業者へ依頼しての対応となりますので、まずは現在の状況について詳しく伺いたいのですが…。」

僕(あ…、あーーーっ!そうか、確認って電話の口頭での状況確認で、この後の時間というのは今からすぐ後の電話の時間のことかーっ!)

僕「あ、失礼しました。そうですよね、はい、大丈夫です…(涙目)」

という、些細な勘違いのようで、実に痛々しい遣り取りだった。この程度は可愛いもので、僕は今までの人生の中で、電話対応で相手に文字通り失笑されたことは枚挙に暇が無い。

そもそもどうしてASDだと電話が苦手なのか

今までの経験と実際のASDの特性から、ASDの人間が電話を苦手とする理由について考えてみた。

行間が読めない

ASDの典型的な特性として、「言われたことを額面通りに受け取る」というのがある。約束の時間に毎回遅れてくる相手に「マイペースで良いね」と言ったら、「そう?ありがとう」と返されるみたいなヤツである。ある程度知能の高いASDだと、こうした判り易い皮肉や言外の意図というのは経験からある程度学習できるので、自分の中のデータベース上にあるパターンと一致さえすれば、それは皮肉だとか、それは言葉が足りていないがそういう意味だというのを理解できる。

ただし、これは逆に言えば、自分の予期していない言葉が発されると、全く対応できなくなるということでもあるし、対応できるにしても、自分の頭をフル回転しないといけないので、非常に負荷が掛かる上に反応も遅れる。電話の場合、お互いに通話時間を気にして短く済まそうとする傾向があるため、必然的に言葉が端折られやすい。それに加えて、顔が見えない相手に対して無言の脳内処理時間を作るのも気が引けてしまうため、今回のような頓珍漢な反応をしてしまいやすいということになる。

相手の声が聴き取れない

ASDの二次障害として多いのが、聴覚過敏だ。聴覚過敏と言うと、大きな音に敏感というような印象を抱くかもしれない。確かにそういう側面もあるけれども、一番日常生活に支障が出るのは、雑音の多い環境だ。聴覚過敏だと、耳に入ってくる音が全部そのまま聴こえてしまい、必要な音に集中することができない。僕の場合、大人数の飲み会になると話している人の声が全く聴き取れなくなって、適当に相槌を打つしかなくなってしまうような弊害があったりする。

これが電話とどう関係があるのかということだけれども、電話の音声圧縮の仕組みが問題になってくるのだ。電話の音声というのは、かなりの高圧縮を掛けていることに加え、伝えるべきと判定された音声は実際よりも大きな音で再生されてしまうため、結果として酷い雑音混じりの音になってしまう。これが聴覚過敏だと聴き取りにくくて仕方無いのだ。酷い時だと何を言っているのか全く聴き取れずに、隣に居た知人に代わってもらったら何の問題も無く話せていたということもある。

メモが取れない

これもASDのよくある特性として、同時に複数の動作をするのが難しいというのがある。僕の場合、普段の生活の中で一番辛いのは、音楽を聴きながら仕事できないことだろうか。「作業用BGM」という言葉まであるけれども、僕はこういうのが全くダメで、音楽を聴いたら仕事が全く手付かずになるし、仕事をし始めたら音楽は雑音でしか無くなってしまう。

これが電話になると、相手の声を聴きながらメモを取ったり、返事を考えたりすることができない。そうなると、せめて返事だけはしなければと思い、相手の話が止まった所で必死に返事を考えて反応をするのだけれども、メモを取る暇が全く無くなるため、その場では返事したものの、電話を切ってから相手の名前や約束の時間が全く思い出せないという非常事態がしょっちゅう発生するのだ。さすがに今では、相手の会社名や名前と約束の時間くらいはミミズのような字で控えられるようにはなったけれども、長い内容、例えば会議の議事録みたいなのは録音しない限り絶対に無理だ。

相手が見えない

「ASDって相手の顔色伺うのとか苦手ではないの?」と、ASDに理解のある方であれば思うかもしれない。確かに苦手だし、強く意識しないと相手が今機嫌が良いのか、悪いのかなど、さっぱりわからない。ただ、それでも見えるのと見えないのとでは、情報量が変わってくるのだ。

さすがに相手が腕を組んで眉間に皺を寄せていたら怒っているのだとわかるけれども、電話越しの圧縮音声となると、余程怒鳴っているのでもない限り、相手の感情を推し量るのは難しい。そうした所から誤解が生まれて、話が拗れたということも今までに何度あったことか…。

課題解決の手段

ではどうしたら良いのか?という所だけれども、「ASDは病気ではなく治るとかいうものではない」という原則に立って、電話を極力使わない、これに尽きる。具体的には、僕は次のように対処している。

  1. 電話以外の連絡手段があれば、そちらを使う。
  2. 電話が必要な場合は、予定調整と確認連絡に絞って利用する。
  3. 電話の中で意思決定を求められた場合は、一旦切って折り返す。

以上の原則に従っておけば、頭が一杯の状態で間違った意思決定を下すような致命的な遣り取りは無くなるはずだ。実際僕の場合、ここ10年程で電話によってとんでもない失態を犯すことは9割方無くなった。まぁ、今回のようなしょうもないポカは数知れないけれども…。

ただ、電話というのは緊急時に利用される連絡手段でもある。なので、電話での会話に限ってその場での意思決定がどうしても必要という場合も多い。僕が失態を犯す残りの1割というのがこれだ。こういった時は、傷口が広がらないように後からでも訂正を入れるなり、謝罪するなり対応するしか無い。こうしたケースへの対応はむしろ僕が教えてほしい。

ちなみに、ASDで仕事上電話が必要という方は、ストレスを感じるようであれば周囲の支援や配置換え等を検討することをお薦めしたい。僕も仕事で電話対応をしていた時期はあるけれども、ある程度までは訓練で何とかなったものの、全身への負荷が半端無いため、業務効率は下がる一方だった。

おわりに

このように、ASDと電話の相性というのはすこぶる悪い。また、定型発達者でも電話が苦手という人は少なからず居るため、「自分はただ電話が苦手なだけだ」と思っているASDの方も多いのではないかと思う(実際、僕もそうだった)。

ここで挙げたような問題があって、仕事にも支障を来している人が居たとすれば、ASDの疑いがあるので一度専門医を受診すると良いと思う。繰り返しになるけれども、ASDは病気ではなく治るとかそういうものではないので、ASDに起因する問題は避けられるならば避けるのが一番だという点については、声を大にして言っておきたい。

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